大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

前橋地方裁判所 昭和35年(行)16号 判決 1967年9月14日

原告

遠藤章

被告

利根村教育委員会

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者双方の求めた裁判

一  原告の求めた裁判

被告が昭和三五年四月二〇日付で原告に対してした無給休暇不承認処分は、これを取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告の求めた裁判

(本案前の抗弁として)

主文第一、二項同旨。

(本案につき)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二  原告主張の請求原因

一  原告は、昭和三〇年四月一日群馬県公立学校教員に任用され、同三四年四月一日から群馬県利根郡利根村立東中学校教諭の職にあつたものであり、かつ地方公務員法(昭和四〇年法律七一号による改正前のもの。以下これに同じ。)第五三条に基づく登録をうけた職員団体であつて、群馬県内の公立小、中学校の教職員約、九〇〇〇名をもつて組織する群馬県教職員組合(以下、「組合」という。)の組合員であつた。

二  原告は、昭年三五年二月一九日、右組合員の投票により、富塚忠次郎ほか一三名とともに常任執行委員に選出され、第二文化部長として同年四月一日から翌昭和三六年三月三一日までの間、組合の業務に専ら従事すべき地位についたので、昭和三五年三月二六日被告に対し、「群馬県市町村立学校職員の勤務時間その他の勤務条件に関する条例」(昭和三一年九月二九日群馬県条例第四〇号、以下、「勤務条例」という)第八条に基づき、職員団体の業務に専ら従事するため右期間に対する無給休暇の承認申請をしたところ、被告は同年四月二〇日付で、なんらの理由をも示さず右休暇申請を承認しない旨の無給休暇不承認処分)以下、「本件不承認処分」という。)をし、その頃原告にこれを告知した。

三  しかしながら、右不承認処分は、原告および原告の属する前記組合の団結権を侵害し、憲法第二八条、地方公務員法第五二条および勤務条例第八条に違反する違法のものである。ところで、右の不承認処分に対する訴願裁決をまつにおいては、原告は、著しい損害をこうむる虞れがあるので、本訴をもつて本件不承認処分の取消しを求める。

第三  被告の本案前の抗弁、答弁ならびに主張

一  本案前の抗弁

(一)  本訴は、地方公務員たる原告のした無給休暇承認申請に対する被告の不承認処分の取消しを求めるものであるところ、右無給休暇の不承認処分は、公務員の公法上の服務関係において、監督権者たる被告が原告に対してした服務監督行為であつて、特別権力関係における純然たる内部規律に関する行為にほかならないから、右の処分の適否については、裁判所の判断は及び得ない。

(二)  本件不承認処分は、原告が権利主体として一般国法のもとにおいて有する具体的な権利義務にかかわるものでなく、本件不承認処分によつて、原告はなんらかの具体的な権利、利益の侵害を受けたものではなし、また原告ないし原告の属する組合の団結権が具体的に侵害されたものでもない。したがつて、本件不承認処分の取消しを求める本訴は、不適法である。

(三)  仮りに、原告の主張するように、本件不承認処分によつて、原告の権利、利益等を具体的に侵害するところがあつたとしても、その権利、利益の侵害は本件不承認処分の取消しによつて、なんら回復されない。すなわち、仮に本件不承認処分が取り消されたとしても、これによつては、原告のした無給休暇の申請に対し承認、不承認いずれの処分もなされていない状態に還元されるに過ぎず、それ以上にはなんら法的効果を生ぜしめるものではない。したがつて、原告の主張する権利利益の侵害があるとしても、それは、本件不承認処分の取消しによつて回復し得るものではないといわねばならず、本訴は訴の利益を欠き、不適法である。

(四)  次に、本件不承認処分の対象となつた原告の無給休暇の申請は、昭和三五年四月一日から翌昭和三六年三月三一日までの期間についてなされたものであるところ、右の期間はすでに経過したものであるから、右の理由からも、本訴は、もはや訴の利益がない。

また、群馬県教育委員会は、昭和三五年九月三〇日付で、原告が昭和三四年四月一日東中学校教諭の職に任命されて以来、上司の職務上の度重なる職務命令に違反し、かつ職務を怠つたことを理由として、原告に対し懲戒免職処分をしたので、これにより原告は同日群馬県公立学校職員の地位を失なった。したがつて、同日以降原告は右公立学校職員としての職務に専念すべき義務を負わなくなつた。しかるに無給休暇の承認は、右職務専念義務を免除する効果を有するに過ぎないから、原告は、もはや同日以降無給休暇申請に対する不承認処分の取消しを求める利益を有しない。

二  請求原因に対する答弁

(一)  請求原因一の事実のうち、原告主張の組合の組合員数が原告主張のとおりであることは知らない。その余の事実は認める。

(二)  同二の事実のうち、原告が常任執行委員に選出されたこと、その主張の日にその主張のような休暇申請をし、これに対しその主張の日に被告が不承認処分をしたこと、右処分書において不承認の理由を明示しなかつたことは、認める。原告が組合業務に専従すべき組合の役織員たる地位についたとの点は否認する。不承認の理由については、口頭をもつて原告に伝えようと考えていたが、原告が勤務学校に出勤してこないため、あらかじめ用意した不承認の旨の文書を原告に郵送したので、不承認の理由を伝えることができなかつたものである。

(三)  請求原因三の主張のうち、本件不承認処分が原告主張の法令に違反し違法のものであるとの点は争う。

三  被告の主張

本件不承認処分は、次に述べるとおり正当な理由に基づく適法なものであつて、なんら違法の点はない。

(一)  本件無給休暇申請は、職員団体たる群馬県教職員組合の業務に専ら従事するための休暇承認申請であるところ、このような職員が職員としての身分を保有しながら本来の職務に専念することなく専ら職員団体の業務に従事するという制度、すなわち在籍専従制度は、職員団体の活動にとつて不可欠のものではない。なるほど、右の制度は職員団体が活動するにあたつて有益なものであることは、これを否まないけれども、それが、職員団体の団結権、団体行動権に不可欠のもの、換言すれば、職員団体についていかなる法制度を採ろうとも、これを欠けばおよそ職員団体の結成、団結の維持、職員団体の活動等が不能ないしは不可能に近い状態に立ち至るというがごときものではない。すなわち在籍専従制度自体は、憲法上の権利ではなく、職員団体の正当な活動を助成するために法律が採用したいわば政策的な制度であつて、職員が、専従休暇の承認を得て本来の職務に専念すべき義務を免れて組合業務に従事し得るのは、法律が右制度を採用したことより生ずる便宜に過ぎない。

のみならず、原告ら教職員も、地方公務員として当該地方公共団体において全体の奉仕者としてその職務を遂行すべきものとされる、職員団体の結成、活動に優先する理念が存するのであるから、承認権者は、右の要請と前示のような在籍専従制度が採られた趣旨とを考慮して、職員のした専従休暇の申請を承認するときは、公務に支障をきたすものかどうかを判断してその許否を決すべきものである。そして原告のような教育公務員の専従休暇承認申請の許否にあたつては、服務監督権者たる被告は、その自由な裁量によつて、教育行政上の政策の実施の必要その他教育行政運用上の専門的、技術的な諸事情を考慮して、専従休暇を与えることにより招来される公務の支障の有無を判断し得べく、これに従つてその許否を決し得るものである。

(二)  元来利根村立学校の教職員が専従休暇を得るには被告に対し、利根村がその職員の専従休暇に関して制定した条例に従つて専従休暇の申請をするとともに、同じく被告に対し勤務条例第八条に基づき無給休暇の申請をすべきものである。しかし、利根村においては専従休暇に関する条例が制定されていなかつたので、かかる場合にあつては、専従休暇制度は、原告の属する組合と、県教育委員会ないし関係市町村の教育委員会をも含む教育行政当局との間に従来行われて来た専従休暇に関する扱いについての慣行に従つて、その具体的な運用・処理がなさるべきものである。

もつとも、群馬県職員に関しては、当時その専従休暇に関して規定する「職員団体の業務に専ら従事する職員に関する条例」(昭和二六年三月一三日群馬県条例第六号、以下「県職員専従条例」と略称する。)が制定施行されていたけれども、県職員専従条例は、原告ら市町村立学校職員の専従休暇について適用されるものではない。このことはその条文の規定自体によつても、また、右条例の制定当時市町村立学校職員の任命権は当該市町村の教育委員会に属し、かつその身分も当該市町村に帰属するものであつたことによつても、明らかである。そして、勤務条例は、専従休暇の承認をうけようとする者が、右の手続とは別個にすべき無給休暇の承認申請に関して規定するものであるから、勤務条例第八条を、県職員専従条例の規定するところと同一に解することはできない。

もともと、本件承認申請のなされた昭和三五年度に先き立つ数年来、群馬県教職員組合と群馬県教育委員会との間には、組合の専従役員は、組合のいわゆる本部役員に限り、かつその員数を組合員数一、〇〇〇名に対して一名の割合による約一〇名の人員の範囲内とする慣行が行われてきた。

ところで、原告は昭和三四年四月一日片品中学校より東中学校に転任となつたが、東中学校へは登校せず、同月二〇日組合本部専従者への就任を理由として無給休暇願を提出してきた。しかるに被告が県教育委員会と協議し、本部専従の事実について調査したところ、同年三月の選挙では、原告は本部役員になつていなくて、利根支部書記長に選任されていた。一方組合は同年度の組合専従職員として、県教育委員会に対して、本部専従一〇名、支部専従三名、日教組専従一名の一四名をあげ、その了承を求めてきた。支部専従として無給休暇願を提出したのは、原告と水沼利世、清水貞三の三名であつた。そこで、県教育委員会は、関係市町村教育委員会と協議の上、従来の慣行に従い、右三名の支部専従にあたる者に対しては、専従休暇を承認しないとの方針を定め、組合に対しその旨を伝え、休暇申請の撤回を促したところ、右三名のうち、水沼と清水は、この勧告に応じたものの、原告のみ、休暇申請を撤回することなく、かつ後に不承認処分がなされたにもかかわらず、なお、本来の東中学校における勤務に従事することなく、組合業務に専従して一年を経過した。

ついで、昭和三四年度末に至り組合は県教育委員会に対し昭和三五年度の組合専従職員として、右三名を含め合計一二名の休暇申請の承認方を申し入れた。右申入れは、前年度支部役員として休暇申請をした右三名にも本部役員たる地位を付してなされた。しかるに県教育委員会としては、従来の本部専従一〇名(組合員一、〇〇〇人につき一人)の慣行上、右一二名全員を認める訳にゆかなかつた。特に原告については実力専従と称して勤務につかず、度々の勤務命令にも拘らず一年間一度も学校に出なかつたものであつて、地元から多くの非難の声があがつており、原告の専従休暇を認めることは他の職員に悪影響を与え、ひいては県下学校教育の秩序ある運営をそこなうことになるので承認することはできないものであつた。かくて被告は県教育委員会と協議の上原告の専従休暇の申請を承認しないことと定め、原告に対し本件不承認処分をしたものである。なお、専従休暇の認められなかつたいま一人の水沼は、学校勤務についたが、原告はなお実力専従と称してその後も学校勤務につかなかつた。

もつとも、組合利根支部においては、昭和二九年以降に訴外鈴森祥司が、右支部業務に専従するという事例があつたが、これは、次のような特殊な事由に基づくものであつて、従来利根支部については専従役職員を置くとの慣行があつたものではない。すなわち、右鈴森は正規に水上中学校事務職員としての給与を受けながら、事実上専ら組合業務に従事するという態度をとつていたところ、たまたま同支部内の月夜野町立小倉中学校が昭和三〇年度をもつて、廃止されることとなり、同校に勤務していた事務職員について、適当な転任先が見出せなかつたため、右鈴森の勤務する水上中学校に転勤させることとし、同校には事務職員二名が勤務する結果となつたので特に右鈴森についてのみその専従を承認する状態に至つていたのである。

(三)  そのほか、原告の本件専従休暇承認申請を承認するについては、なお次のような公務上の支障があつた。すなわち、被告教育委員会教育長が、原告において本件専従休暇申請をしたことを了知したのは、昭和三五年三月二九日であつたところ、当時原告の勤務する東中学校を含む利根村における公立学校の昭和三五年度の教職員の配置はすでに決定しており、容易には、補充し得ない事情にあつた。そして、原告は国語科教員一級免許状を有していたが、同校には従来よりこの免許状を有する教員がいなかつたので、前年度に特に原告を同校に転勤させ、同校における教授内容の向上をはかつたものであるから、原告の勤務を免除するときは、同校の学校運営上重大な支障をきたした。

第四  被告の本案前の抗弁および主張に対する原告の主張

一  被告の本案前の抗弁に対する原告の主張

(一)  被告は、専従休暇申請に対する承認、不承認の処分は特別権力関係における内部的規律に関するもので、その許否の処分には裁判所の判断の及ばないものであり、かつ、本件不承認処分によつて原告はなんら具体的な権利の侵害をうけるものではないと主張する。

しかし、まず、被告が主張する特別権力関係の理論をもつて、原告らの教育公務員の勤務関係ないしは専従休暇に対する承認、不承認の処分を律することは、誤りである。

仮に原告らの教育公務員の法制に右のごとき理論を容れる余地ありとしても、このことから直ちに本件不承認処分の適否については司法審査の対象となり得ないということはできない。

特別権力関係の理論によつて、法治主義の原則の制約される限度は、当該の特別権力関係設定の目的に照らし必要であり、かつ法律上または相手方の同意から社会通念上合理的と認められる範囲にとどめるべきものであり、憲法の基本的人権の保障と抵触するような関係の成立を肯認することはできない。原告のした専従休暇申請は、後述の趣旨において、原告ら教職員の職員団体の有する団結権に基づき、その維持を計るためにしたものであつて、これら勤労者の団結権、団体交渉権の面においては、勤労者と教育委員会等の当局者との間は対等の関係に立つことが憲法第二八条の規定の理念とするところであるから、そこには法治主義の適用を除外する余地はない。のみならず、職員が休暇を得て職員団体の業務に専従し得る権利は、後に詳述するとおり憲法第二八条により保障されている勤労者の団結権に内在しまたはこれより当然に派生する権利であるから、このような権利が、特別権力関係にあることの一事によつて、否定ないし制約され得るものと解することはできない。

原告ら公立学校の教職員も、勤労者として憲法第二八条によりその団結権を基本権として保障されているのであり、任命権者ないし服務監督権者の支配、統制をはなれて、自主的に勤労条件の維持、改善を図ることを目的とする職員団体を結成し、当局との間で団体交渉をなし得ることは、右基本権の具体的な行使にほかならない。地方公務員法が、原告ら公立学校の教職員が前示事項を目的として職員団体およびその連合体を組織することを認め、かつその団体交渉権を認めているのも、右の憲法の保障に由来するものである。そして、前示の目的のもとに職員団体がその団結を維持し、団体交渉その他その日常活動を含む職員団体としての存立を全うするためには、右職員団体の業務に専従する役職員をもつことが、不可欠であることも多言を要しない。のみならず、当時にあつては、被告および県教育委員会は、当時の地方公務員法第五三条を根拠に、職員でないものが、職員団体の役員の地位に就き得ること、従つて組合業務専従者となり得ることを争い、これら非組合員を役員ないしその構成員とする職員団体に対しては、その職員団体としての適格を否定し、これとの団体交渉等を拒否する態度にでる実情にあつたから、なおさら、組合専従役員は職員たる身分を保有するものでなければならなかつたのであり、この事情からも在籍専従制度は職員団体の活動上不可欠のものであつた。

在籍専従制度およびこれに基づく職員の専従休暇承認申請権は、以上のとおり憲法で保障された基本権たる団結権に内在する権利であつて、専従休暇不承認処分は、右権利を侵害するものであるから、本件不承認処分によつてはなんら原告の権利、利益は侵害されないとの被告主張は失当である。

(二)  次に、被告は本件不承認処分の取消しによつては、単に専従休暇申請がなされたに過ぎない状態を生ぜしめるものでしかなく、原告は本件不承認処分の取消しによつて回復し得る具体的な利益を有するものではないと主張する。しかしながら、行政処分の取消しを求める訴えにおいては、単に当該の行政処分の適否が確定されるのみならず、行政庁は右訴訟における裁判所の判断に従つて適法な処分をするように拘束され、係争の処分が違法と判断されたときは、行政庁は再び同一の処分をなし得ない拘束をうけるのである。本件についてみれば、本件不承認処分の取消判決が確定したときは、あらためて承認処分をなすべく、さらに本件不承認処分の適法、有効なことを前提として後にこれに基づく処分がなされたときは、これを取り消すべき拘束をうけるのである。のみならず、職員は専従休暇の申請をすることにより、承認権者の適法な理由に基づく不承認の意思表示のない限り、直ちに職務専念義務の免除を得て、組合業務に専従し得ることとなるのであるから、特に本件においては、本件不承認処分の取消しにより、原告が組合業務に専従した所為が適法であることが確定されるという効果を生ずる。以上のように、本件不承認処分の取消しにより、これらの法的効果ないし法律上の利益が生ずるのであるから、被告の前記主張は、理由のないことが明らかである。

(三)  更に、被告は原告のした本件申請にかかる専従期間が経過したことにより、または原告が懲戒免職処分に付されたことをもつて、もはや原告は、本件不承認処分の取消しを求める利益を欠くに至つたと主張する。

被告の主張するとおり、群馬県教育委員会は、昭和三五年九月三〇日付で、原告が昭和三四年四月一日東中学校教諭の職に任命されて以来、上司の職務上の度重なる職務命令に違反し、かつ職務を怠つたことを理由として、原告に対し懲戒免職処分をした事実は、これを認める。しかしながら、原告が申請した専従休暇の期間が経過し、もはや原告はその期間について専従休暇を得ることはできなくなつたとしても、また、前示免職処分により原告がこうむる不利益は本件不承認処分自体が生ぜしめた直接の不利益ではないとしても、本件免職処分の理由とする原告の職務専念義務違反の存在ないし原告に対する職務命令の適法性が本件不承認処分の適法、有効であることを前提としていることは明らかである。それ故本件不承認処分に公定力を認める以上、原告の職務専念義務免除を主張し、本件免職処分によりこうむつた原告の不利益を除去するためには、本件不承認処分を取り消す判決を得て、その公定力を排除することが必要、不可欠である。

なお、本件免職処分により原告のこうむる不利益は、本件不承認処分より当然かつ直接に生ずるものではなく、本件不承認処分の適否、効力は、後にこれを前提とする個々の不利益処分を争う際に争い得るものであるとの見解は、抗告訴訟の本質にそわず、誤りである。本件不承認処分それ自体が取り消されない限りは、仮に後の訴訟においてその適否、効力が判断されたとしても、この判断は行政庁を法的に覇束するものではないから、被告ないし県教育委員会等の行政庁は、本件不承認処分が依然有効であることを前提として、原告に対して各種の処分をせざるを得ない。かくては後訴の判断にもかかわらず、本件違法な不承認処分から生ずる原告に対する不利益はなんら防ぎ得ないこととなる。かかる結果を肯定することは、極めて不合理である。したがつて、かかる結果の当然に予測される本件にあつては、不承認処分それ自体の効力ないし適否を直接に争う行政処分取消の訴えの利益を肯定すべきであり、かくしてこそ原告がこうむるべき不利益を防ぎ、じ後の争いを防止することができる。

職員が職員としての身分を失えば、そもそも職員としての職務専念義務ないし上司の職務命令に従うべき義務を負うものではないことは被告の主張するとおりである。しかし、前記のとおり本件にあつては本件不承認処分が取り消されると、本件免職処分の理由とされている原告の職務上の義務違反はなかつたことになり、かつ、原告に対し職員としての本来の職務につくべき旨を命ずる上司の職務命令も違法のものと評価され、その結果、右職務命令に従わなかつたことも、職務上の義務違背という評価を受けなくなるから、本件免職処分も違法として取り消さるべきものとなる。そして、原告は現に本件免職処分の違法を主張してその取消を訴求しているのである。このように本件不承認処分の取消を請求する具体的な利益が現存しているものであるから、単に原告に対する免職処分がなされたとの一事によつて、直に訴えの利益が失われたものということはできない。

二  被告の主張に対する原告の主張

(一)  被告主張三の(一)のうち、在籍専従制度の意義、専従休暇申請権の法的性質および専従休暇申請に対する処分が自由裁量行為であるとの点は、いずれも争う。

前記第四の一の(一)に主張したとおり、在籍専従制度は、原告らが勤労者として有する基本権である団結権に内在し、これより当然に派生するものであつて、職員の専従休暇申請権も同様であり、これを被告主張のごとく職員団体の活動の便宜の為に認められた政策的な権利に過ぎないということはできない。

のみならず、原告が主として従事することとなつていた組合利根支部は、同支部に属する分会数、組合員数、分会所在の地理的条件、従来の活動状況等からすると、同支部の業務に専従するものなくしては、その存立自体が危殆にひんする実情にあつたので、同支部における職員の団結権を実質的に保障し、その職員団体としての活動を真に実効あらしめるためには、同支部の組合業務に専従する職員が特に必要であつた。

以上述べたように、在籍専従制度は、集団的労働関係に関するものであつて、専従者となるべき者の個別的労働関係は、これに随伴するに過ぎないものであるから、原告ら群馬県市町村立学校職員が職員団体の業務に従事するための休暇を得るには、本来任命権者である群馬県教育委員会に対して専従休暇の申請をし、その承認を得るとともに、服務監督権者である市町村教育委員会に対して、組合業務に専従するための無給休暇の申請をし、その承認を得る手続によるべきものである。しかるに、従来県教育委員会は、専従休暇の承認権者は、服務監督者であり、専従休暇を得る手続は、当該職員の身分の帰属する市町村において定める条例によるべきものであるとの見解に立つており、従来の実情は、勤務条例第八条の規定に従つて服務監督権者たる市町村教育委員会に対し組合業務に専従するための無給休暇の申請をし、これに対する承認処分がなされることにより、あわせて専従休暇の申請ならびにそれに対する承認があつたものとして取り扱われていた。

ところで、利根村においては、専従休暇に関する条例が未制定であつたのであるが、被告は右条例未制定の間における専従休暇の取扱いについては、従来の慣行に従うべきものであると主張する。

一般論としては、労働慣行の尊重さるべきことは、被告の主張するとおりであろう。しかし本件について見れば、まず前示勤務条例の規定があり、その取扱い基準については県職員専従条例第二条が、「任命権者は、職員に対し、その申出により公務に支障のない限り人事委員会に登録された職員団体の業務にもつぱら従事するための休暇(以下「専従休暇」という。)を与えることができる。」と規定しているのであるから、この規定を適用ないし準用して、専従休暇の申請に対し承認、不承認の処分をすべきものである。本件に専従休暇に関する労働慣行といい得るものがあるとすれば、それは右の規定の趣旨に反しない限りにおいてこれを補充するものとして考慮さるべきであるに過ぎない。

被告は、県職員専従条例は原告ら市町村立学校の教職員には適用されないという。なるほど、右条例は市町村立学校の教職員の任命権が、当該市町村にあり、かつその身分もこれに帰属していた当時に制定されたものであるから、制定の際にはその適用は予定されていなかつたとしても、任命権が県教育委員会に帰属することとなつた昭和三一年以降においては、市町村立学校職員にもその適用、すくなくともその準用をみるべきものとなつたと解すべきである。右条例の文理はこのような解釈を妨げるものではない。かつ現に被告も、本件不承認処分の理由として公務の支障を挙げているのであつて、このような解釈を前提としているものということができる。

そして県職員専従条例第二条にいう「公務に支障がない限り」専従休暇を与えることができるという規定は、前に詳述した在籍専従制度の趣旨および専従休暇申請権の法的性質よりして承認権者は「公務に支障のない限り」職員の専従休暇の申請を承認すべくその裁量が覊束されるものと解すべきである。

仮に原告ら市町村立学校職員の専従休暇については、県専従条例の適用ないし準用がないとしても在籍専従制度の性質が、前記のとおりであり、専従条例の制定の有無により在籍専従制度の本質に差異あるものと解し得ない以上、被告が、勤務条例第八条に基づく職員の専従休暇申請について承認、不承認の処分をするにあたつては、県職員専従条例第二条の規定するところと同一の基準によるべきものである。

(二)  被告主張三の(二)のうち、昭和三四年度において、組合が三名の支部役員についても組合専従とする旨を申し入れた事実は認める。組合は、同年三月一〇日組織上の必要から三名の支部業務専従役員を置くことを決定し、利根、新田多野の各支部に配置することとし、原告は利根支部の組合業務にあたることとなつていた。しかし、原告は、特に県教育委員会当局者の本部役員として専従休暇を求めるのであれば、これを承認するとの意向に従い、同年一〇月三日組合委員会の決定により組合本部役員に就任し、利根支部における業務以外の組合業務にも従事することとなつた。昭和三五年度においては、原告は、組合員水沼利世その他と共に本部役員に選出され、組合本部第二文化部長の資格で単に利根支部における組合業務のみに従事するにとどまるものとしてではなしに専従休暇の申請をしたものである。

次に、組合との間に、専従役員たる者の範囲、その員数について被告主張のような慣行があつたとの点は争う。被告は、県教育委員会当局が昭和三四年二月群馬県議会において、群馬県教職員組合については、専従職員の数は約一〇名、すなわち、組合員一、〇〇〇名につき一名の割合による人員が適当であるとの公的発言をした立場上、専従職員一〇名の線に固執する態度をとるに至つたに過ぎない。しかも、県教育委員会は、後には、第二組織部長として支部業務に従事することも予定されていた清水貞三を含む本部役員合計一一名の専従を承認するという、被告主張の慣行に反する態度さえとつたものである。

(三)  被告が本件不承認処分の理由として主張するところは、いずれも本件不承認処分を適法、有効ならしめるものではない。もともと、専従休暇の承認申請を拒むことができる公務の支障とは、専従休暇を得ようとする職員の現に従事すべき職務が性質上余人をもつては到底かえがたい程度の非代替性を有する場合とか、あるいは、当該職員が職務に従事しないことによつて行政上著しい損害を生じ、社会通念上その回復が不能とみられるような場合をさすものと解すべきである。

被告は、原告の勤務する東中学校の学校運営に支障があつたと主張する。しかしながら、原告が同校の勤務に就かなくなつたのち、昭和三四年一〇月には、西山典教諭が学期半ばにして同校に転任し、定数条例に定める教職員が配置されるに至つたのであり、昭和三五年度においても同様であつたのであるから、原告が現実に同校の勤務に就かなくても、なんら同校の学校運営に支障を生ぜしめなかつた。このことは、同校の学校運営の直接の掌にあつた同校校長でさえこれを認めていたことによつても明らかである。また、原告を東中学校に転任せしめたのは、前年度のいわゆる勤評反対闘争に対する報復人事にほかならないもので、被告主張のごとき東中学校における教授内容を向上せしめんとする配慮からではなかつたのである。

元来在籍専従制度は、職員がその身分を保有しながら本来の職務から離れるものであるから、必ずや学校運営上多少の支障を伴うものである。しかし、在籍専従制度が憲法ないし地方公務員法上認められている以上、右の支障は任命権者が後任の補充をする等の処置をとることにより、これを防止すべきものであり、任命権者が後任者の補充をしないから学校運営上支障を生ずるとの理由をもつて、専従休暇の申請を拒み得るものではない。もし、このような理由が専従休暇の申請を拒み得る公務上の支障にあたるとすれば、在籍専従休暇制度を根本的に否定する結論となり、いずれの者をもつて役員とし、専従職員とするかを自らの意思により決定する職員団体の権利は、任命権者の意図のままに左右され、なきに等しい結果に立ち至ることが明らかである。

また、被告は、原告に専従休暇を与えることは、他に悪影響を与え、群馬県下の公立学校の教育全体の秩序ある運営をそこなうと主張する。

しかし、昭和三四年度において、被告が一応の不承認処分をしたのは、原告が無給休暇を申請したのち数月を経た同年七月一八日であつて、しかもその理由は、公務の支障を理由とする適法、有効なものではなかつた。被告ないし県教育委員会は、右不承認処分をしたのちも、原告が本部役員として申請するのであれば休暇を承認するとの態度を示し、前記のとおり西山教諭を原告の後任として転任せしめて、原告が組合業務に従事することを認容する態度をとつていた。また、原告は慢然職務を放棄したのではなく、その間組合の業務に従事していたのであつて、前記のような在籍専従制度の本質からすれば、原告の所為は格別非難に価するものではないし、また何人に対しても悪影響を及ぼすものではなく、また群馬県下全体の公立学校の教育の秩序ないしその運営をそこなうものでもなかつた。原告が昭和三四年度において東中学校に勤務しなかつた点は、服務上の問題を残す余地があるとしても、職員団体の専従職員としての適性を欠く理由とはなし得ないものであり、このような事実を理由とする不承認処分は職員団体に対する支配介入にほかならない。

第五  証拠関係

一  原告訴訟代理人は、甲第一号証ないし第七号証、甲第九号証ないし第二〇号証、甲第二一号証の一、二を提出し、乙第二一号証の一、二、同第二二号証ないし第二七号証、同第二八号証の一、二、同第二九、三〇号証は、いずれも原本の存在ならびにその成立を認める、その余の乙号各証の成立は知らない、と述べた。

二  被告訴訟代理人は、乙第一号証の一ないし五、同号証の六の一、二、同号証の七、同号証の八の一、二、同号証の九、同号証の一〇ないし一三の各一、二、同第二号証の一ないし三五、同第三号証の一ないし三、同第四号証の一ないし三、同第五号証の一、二、同第六号証の一ないし三、同第七、八号証の各一、二、同第九号証の一ないし三、同第一〇、第一一号証の各一、二、同第一二号証ないし第一七号証、同第一八号証の一、二、同第一九号証、同第二〇号証の一ないし六、同第一二号証の一、二、同第二二号証ないし第二七号証、同第二八号証の一、二、同第二九号証ないし第三一号証を提出し、甲第三号証ないし第七号証の成立は知らない、その余の甲各号証の成立を認める、と述べた。

理由

一  原告が昭和三〇年四月一日群馬県公立学校教員に任用され、同三四年四月一日から同県利根郡利根村立学校教員として、同村立東中学校教諭の職にあつたものであり、かつ地方公務員法(昭和四〇年法律第七一号により改正前のもの。以下これに同じ。)第五三条に基づく登録をうけた職員団体である群馬県教職員組合の組合員であつたこと、原告が昭和三五年三月二六日被告に対し勤務条例第八条に基づき右職員団体の業務に専ら従事するため、昭和三五年四月一日から昭和三六年三月三一日までの期間に対し無給休暇の承認申請をしたこと、これに対し、被告が昭和三五年四月二〇日付でその不承認処分をし、その頃原告にこれを告知したことは、当事者間に争いがない。

二  そこで、被告の本案前の抗弁について判断する。

(一)  被告は、専従休暇の承認に関する処分は、特別権力関係における内部規律に関する行為であつて、その適否は司法審査の対象とならず、また、本件不承認処分は、原告の具体的な権利を侵害するものではないから、本訴は不適法であると主張する。

しかし、地方公務員法は、職員は、その職務の遂行に当つては、全力を承げてこれに専念しなければならないものとしているが(同法第三〇条)、他方職員が、地方公務員たる身分を有しながら、職員団体のためその事務を行い、その活動に専念することができるものとし(同法第五二条第五項)、これをうけて、勤務条例第八条は、「県費負担教職員は、正規の手続を経て……市町村教育委員会から休暇を受けることができる。(第一項)前項に規定する休暇は、有給休暇と無給休暇とする。(第二項)無給休暇は職員団体の業務にもつぱら従事するため勤務しない期間をいう。(第四項)」と規定している。このような法律制度がとられた理由は、原告ら県費負担教職員も、憲法第二八条にいう勤労者として、地方公務員法により職員団体を結成し、かつ地方公共団体との間で勤務条件に関し団体交渉を行い得る権利を保障されているのであるが、地方公務員法は、同法第五二条第一項の規定等よりして、非職員が職員団体の構成員ないしその役員となることを認めていない趣旨に解されるので、これを前提とすると、全勤務時間をあげて職務に専念すべき義務を負う職員としては、職員団体の組織活動当該地方公共団体との団体交渉等を効果的に行なうことができず、ひいては職員団体を結成した実を失うことになるためであると考えられる。

以上のようないわゆる在籍専従制度が認められた趣旨からすれば、職員団体の役員に選出され、組合業務に専従すべきものとされた職員は、当然に専従休暇承認申請権を取得するものというべく、被告は公務の支障のない限り、右申請を承認することより職員に対して職務専念義務を免除し、組合業務に専従することを適法ならしめるべく義務づけられているものというべきであるから、これに関する処分は、単に地方公共団体内部における自律の範囲にとどまらず、法令による統制に服するものとして、裁判所の審査の権限が及び得るものと解すべきである。そして、本件不承認処分は職員の前記承認申請権に法的効果を及ぼすものであるから、取消訴訟の対象となる行政処分であるといわなければならない。よつて、この点に関する被告の本案前の抗弁は理由がない。

(二)  次に、被告は、原告の申請にかかる専従休暇の期間は昭和三五年四月一日から昭和三六年三月三一日までであるところ、原告は昭和三五年九月三〇日に群馬県教育委員会より懲戒免職処分に付され、また、右期間はすでに経過したから、本訴の訴えの利益は失われたと主張する。

群馬県教育委員会が昭和三五年九月三〇日付で原告に対し懲戒免職処分をしたことは、当事者間に争いがない。しかし、右処分を違法として、その取消しを求める訴訟が係属していることは、当裁判所に顕著な事実であるから、原告が昭和三五年九月三〇日付免職処分により確定的に教育公務員たる身分を失つたものとして、その前提のもとに直ちに訴の利益を否定する被告の主張は、採用し難い。

よつて、原告申請にかかる専従休暇の期間経過により訴の利益が失われたかどうかの点について考察することとする。

本件訴の利益は、昭和三七年一〇月一日から施行された行政事件訴訟法附則第三条本文の規定により、同法を適用してその存否を判断すべきである。ところで、本件不承認処分は前記原告申請にかかる専従休暇の期間を対象としてなされたものであつて、原告に対し将来にわたり専従休暇を承認しない趣旨でなされたものではなく、しかも申請にかかる専従休暇の期間はすでに経過したことが明らかである。

原告は、原告に対して前記のとおり懲戒免職処分がなされたのであつて、右処分は本件不承認処分の適法、有効なことをその前提とするものであるから、右免職処分によりこうむる不利益を除くために本件不承認処分の取消を求める法律上の利益があると主張する。

しかし、前記懲戒免職処分の理由とするところは、原告が昭和三四年四月一日東中学教論の職に任命されて以来、上司の職務上の度重なる職務命令に違反し、かつ職務を怠つたというにあることは、当時者間の争いのない事実である。したがつて、右免職処分は、「原告が昭和三四年四月一日東中学校教諭の職に任命されて以来、上司の職務上の度重なる職務命令に違反し、かつ職務を怠つた」という、本件不承認処分とは別個の事実に基づくものであり、本件不承認処分により当然かつ直接的に招来されるものではないから、本件不承認処分を取り消したからといつて、直ちに右免職処分が違法となり、その不利益が除去されることにはならない。

原告は、本件不承認処分に公定力を認める以上、本件不承認処分を無視して、本来の職務に従事しなかつた所為が違法であると評価される結果となるので、これを妨げるためには、その公定力を排除する以外に方法がないから、本訴の利益があると主張する。

しかし、仮に本件不承認処分が単に取り消し得べきものにとどまるものであれば、行政処分の公定力からいつて、取消しがされるまでは何人もそれを有効としてその前提に立つて行動すべきであり、原告としては職務専念義務の免除を得たものではないものとして、本来の職務に専念すべきものである。それにも拘らず、原告は本来の職務に従事しなかつたのであるから、職務上の義務上の義務に違背したものといわざるを得ず、その法律的評価自体は、本件不承認処分が取り消されたとしても、なんらかわるところはないのである。また、もしも、本件不承認処分が無効であるとすれば、右免職処分の取消を求める訴において、本件不承認処分が無効である旨を主張すれば足りるのであつて、本訴においてこれを取り消す判決を得る必要をみない。したがつて右原告主張のごとき理由をもつて、本件不承認処分の取消を求める訴の利益を肯定することはできない。

なお、本件不承認処分が違法であつたため原告がやむなく無承認のまま組合業務に専従したという事情が、原告に対し将来なされることあるべき個々の不利益処分の効力を判断するにつき考慮されるべき事項であるとするならば、それは本件不承認処分の取消しをまつまでもなく、右個々の不利益処分の効力を争う訴訟において考慮され得ると解される。

更に、原告は、将来本件不承認処分の結果こうむることあるべき不利益処分の効力を原告が争う際に本件不承認処分の効力を争い得るとしても、これら争訟における判断は、本件不承認処分の効力自体を直接に確定せず、本訴においてのみ、よくこれを確定することができ、したがつて本訴によりじ後の一切の紛争を防ぐことができるのであるから、この趣旨においても本訴の訴の利益を肯定すべきであるという。しかし、回復さるべき原告の具体的な権利、利益が明確でないにもかかわらず、単なる予防的見地から行政処分の効力それ自体を確定することを目的として訴を提起することは、現行行政事件訴訟法の下においては許されないものと解すべきである。

その他本件不承認処分の取消によつて回復さるべき法律上の利益を認め得るに足る資料はない。

三  そうすると、原告が本件不承認処分の取消を求める法律上の利益は既に消滅したものというべく、原告の本件訴えは、これを不適法として却下すべきである。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例